政府の間伐に関係する基本方針をみると、「国産材の安定供給体制を構築するとともに、地球温暖化防止等の多面的機能を発揮するための間伐等の森林施業や路網の整備を推進する」としている。
このことは、間伐によって木材生産を高めると同時に良好な森林環境を維持できるという意味に受け取れる。国の政策でいえば、終戦後の拡大期では「木材生産」を主眼においていたが、ここ数年前からは温暖化防止意識などの高まりによって「環境」を重要視する政策へと変わってきた。
内閣府による森林・林業に関する国民の世論調査によれば「木材生産」は最下位で、公益的機能(水源かん養、土砂流出防備など)が最上位になっている。
木材生産と公益的機能は別々に考えるのではなく、双方は両立するものであるし、共生するものと思う。木材生産と良好な森林環境を共生する為に施業(手入れ)が必要であるし、中でも間伐が一番大切になってくる。
間伐が全く行われていない森林では、林内は暗く、下草が全くない状態である(放置林)。そうなれば、たび重なる降雨によって林地があらわれて、養分を同時に流されるのと、光が十分に入ってこない度に立木の生育がきわめて悪いので、ヒョロヒョロした木になっている(線光林といわれている)。地表が大水で浸食されて、木の根が地表面上に現われてたり、一部小さな土砂の崩れもみられる(写真参照)。このままにしておくと、近い将来大きな災害(土砂崩壊)につながりかねない。やはり森林は適度な間伐をくり返して、林内に光を入れて下草の植物が繁茂する状態にして、林地を安定してゆかなければならない。
そうすることによって、土砂流出も防げるし、水源かん養も保たれるのと同時に地球温暖化防止にも貢献できる。
間伐には、切った木を林内に置いたままにしておく方法(保育間伐)と切った木を搬出して売る方法(利用間伐)がある。大切に育てた木なので、できれば搬出して売りたいところですが、昨今の材価の低迷によって、実際には売るところまでゆけていないのが現実となっている。日本の人工林の齢級構成をみると、圧倒的に30年生~60年生の木が多くをしめている。これらの間伐による収入を見込めれば本当によいのですが…。
次に間伐による収入を上げる為に、ぜひとも必要な作業道について書かせていただく。森林には、林道と共に作業道という道が必要となってくる。作業道は道巾が2.0~3.0m程で、おおむね基幹林道から開設する。小型のユンボやブルドーザーなどの重機を使って入れてゆくことになるが、ポイントは水の処理をうまくすることである。なぜなら雨が降れば、水は道の上を流れてゆくことになるので、路面が少しずつ浸食されて、溝ができたり、デコボコの道になって通行しにくくなることもあるし、また法面を大きくカット(2.0m以上)すると、そこから土砂崩壊を引きおこして、崩れてくることもある。せっかく作った道が使えなくなると意味がなくなる。この様なことがないように、
①上部のカット高はできるだけ低くする。
②上部も下部もできる限り木を残す、特に下部はガードレールの割役をはたすので注意して残す。
③特に下部側で必要なところは木をくんで、安定させる。
④路面は少し下部側を低くして、水がすぐに下部側に流れてゆく様に傾ける。
⑤できるだけ尾根筋に開設するが、やむをえず谷に近いところに作るときは水の処理を特に注意する(写真参照)。
他にもあるが、以上の様なことに配慮しながら、作業することになるが、作業道は木の伐採搬出がメインとはなるが、山の手入れ管理の為の道でもあるので、長い将来にわたって、こわれないような道づくりをしなければならない。実際間伐した木は搬出販売している訳だが、道は作ればよいということではなく、搬出しやすい道ということを頭において作ってゆくことが肝要である。もう一つ大切な点は、森林の自然環境をできるだけこわさないような道づくりを心がけなければならない。先の道巾が小さいことや、切り取りが低いことなどは、この点に配慮した方法でもある。
さて、間伐と作業道の話から、今度は美しい人工林はどう作ってゆけばよいかという問題となってくる。
ドイツの林学者のアルフレート・メーラーの言葉に「もっとも美しい森はまたもっとも収穫の多き森である」とある。つまり美しい森は環境的に優れているということである。だから美しく感じる森では、環境と生産(経済)は両立するものである。
伐採は間伐(ぬき伐)を繰り返し実行してゆき、常に森林の自然環境を維持する状態にしておく。こうすると、おのずと景観として美しいだけでなく、森林の生産力も最大に高まってゆくことになる。つまり、美しい森づくりをすれば、収益も上がり、林業経営も安泰となってゆくので、「環境か経済か」という二項対立はなくなってくる。但し、昨今の材価があまりにも低いことは頭痛いところではあります。
例えば、高層木(スギ、ヒノキなど)が太くて、直すぐな樹幹を伸ばしていて、その下に中低木層が広がり、林床にも光がさしこんで下草が茂っているという景観は誰もが美しい森と感じるだろう。そこには動植物が数多く生息していて、環境的に優れていると同時に、高く売れる優良木が多く育っている(写真参照)。中には高層のスギ林の下一面にアジサイの群生がみられることもある。また谷筋には同じく高いスギ林の中に、白い花をたくさんつけた、ヤマボウシが点在している。
ここは、新宮市熊野川町赤木の田長谷山林及び同地区の白倉山林の景観ですが、いずれも100年以上の長きにわたって、作られた美しい森林ということができる。とりわけ白倉山林(当財団所有林)は、上層のスギは200年以上の立木で、土壌環境がスギの生育に大変良いのか、まっすぐで枝下高が高く、節が少ない高木が林立している。最も高いスギでmもある(胸高直径は138cm)。中層には、ユズリハなどの広葉樹やスギなどの針葉樹が成立し、低層木が数多くあり、下草は一面隙間なく繁荗している。ちなみに、森林総合研究所の土壌調査結果によると、スギの生育はもちろん、多種の生物の生育によい環境とのことである。このような森林環境の中では、先に示した公益的機能(水源かん養、土砂流出設備、温暖化防止、生物多様性の維持)は、十分発揮できると共に、林業経営上の最重要点である良質材の生産が可能となる。木材生産と自然との共生こそが、これからの林業には、絶対的に必要なことであり、それは可能なことである。
当財団法人の白倉山林の美しい人工林をぜひともご一覧下さい。

下草がなく、土がむき出しになっている。水で土が流されて、根が土の上に出ている。
小さな谷で、小規模の崩壊がみられる。
保育間伐を実施した山林では、明るくなっている。
間伐予定木をチェンソーを使って伐倒する。
重機を利用して作業道を利用して玉切る。
玉切った木材を集積する。この後、トラックで運搬する。
重機で作業道を開設する。
ところどころで木組みをして安定させる。
作業道横の木は残す。林内は間伐を実施したので、光が入って下草木が茂っている。
スギの二段林。上層木100年生。下層木30年生。
110年生のスギ林の下には、アジサイの群落がみられる。
120年生のスギ林の下で、ヤマボウシが白い花をつけている。
220年生のスギ林の風景。中層木、低層木、下草が繁茂している。
200年生のスギ林の風景。広葉樹とスギ下層木が混在している。
安定した森林の中では、美しい谷川がみられる。この川の水は、洪水の時でも濁ることはない。