ここ熊野地方は温暖多雨の気候の中で、木がよく育つ環境にあります。
昔からスギやヒノキの植林が盛んに行われてきました。その結果今ではこれらスギ・ヒノキの人工林が山の奥深くまでたくさんみられます。
相対的に広葉樹を主体とした天然林は減少してきました。とりわけ戦後の拡大造林(天然林を皆伐してスギ・ヒノキの人工林に植え替える)によって天然林は減少を加速させてきました。
近年は製紙用のパルプ材が外材の方が安いこともあって需要が激減してきた結果、天然林の伐採(皆伐)はみられなくなってきました。
この様な現状を前提にして、熊野の山々を見ると人工林と天然林が比較的はっきりと区分してみられます。
天然林と人工林が混生している様な、モザイク状な山はほとんど見ることができません。また人工林と天然林の他、ところどころに皆伐跡地(はだか山)がみうけられます。
このような熊野の森林の中で私共の財団法人の基本的方針であります。非皆伐~択伐林の森づくりが今後進展してゆくことを願っています。
まず今でも多く見られる皆伐方式による森林の場合をみますと、皆伐によって長年に渡ってつくられてきた森林が裸地化(はげ山)することになります。
山の裸地化によって様々な悪い影響が出てくると考えられます。
それは、雨などによる林地土壌の流出から土壌の悪化を経て地力の減退へとつながってゆきます。これらのことによって一方では山腹崩壊の危険性も高まり、場合によっては大規模な林地崩壊が発生する危険性もあります。一方では森林が無くなることによって、そこに生息していた昆虫を始め、多くの動物達も生活の場を追われて、いわゆる生物多様性が失われてゆくことになります。
このようにいったん壊された森林が元の森にもどるには非常に長い年月がかかるし、人工の森にもどすには多額のお金が必要となってきます。
昨今の木材価格の低迷により、人工林にする為の費用が捻出できないこともあって、皆伐跡地をそのままにしておく(放置林)ことが数多く見られます。
このように皆伐方式によることは環境面からみても、又災害の危険性からみても好ましい姿とは言えません。
これに対し、非皆伐方式の場合を考えてみると、森は常に林木を中心とした多くの植物で覆われています。
このことは前述の皆伐に伴う危険性が極めて少ないことを意味しています。
つまり表層土の流出~土壌の悪化~地力減退~山地崩壊の危険性が少ないことであります。
又多くの生物が生息する生物多様性の森林が維持されることにもなります。
このことから非皆伐の森林は、持続性と健全性共に皆伐に比べて遙かに優れているといえます。
非皆伐方式は、中令林(約60年生)位までは間伐の繰り返しで、本数調整を行いながら、林内にも光を入れて下層植物を促してゆくことになります。その間伐の中で採算性がある場合は搬出して売り上げることになります。中令林を超えて高令林になってくると、間伐率を少し上げて、より林内へ光を取り入れるようにします。こうすることによって、下層の植生だけでなく下層から大きくなって中層木に育ってゆく木も出てきます。やがて100年生を超えてくると、上層木、中層木、下層木の三層ほどの複層林が形成されてゆきます。
場合によっては下層に植林を実施することもあります。
こうして長い年月を掛けて形成された複層林は針広混合の天然林に近い、いやそれ以上の美しい森となってゆくことになります。
こうなれば上層の高令木は価値の高い木となっているので、後は少しずつ伐りぬいてゆく、いわゆる択抜林へ移行してゆきます。
この様に非皆伐を原則として、やがて択伐林へともってゆくことが理想と思われます。
但、択伐林といえども問題点もあります。それは伐採搬出コストが高くなるということです。
具体的には、伐採する木の選定から残す木をキズつけないように伐採する技術、又搬出する際も残す木を傷めないようにする配慮など…。これらによって皆伐に比べてコストが高くなってゆくことになります。長年の木材価格の低迷によって木材の売上収入に対する経費が釣り合わない状況になっている現状があります。そしてこの不釣り合いの助けになるのが間伐補助金で、補助金に頼っているのが現状であります。
金銭的な問題もありますが、森林の環境面を考えると、やはり非皆伐~択伐林の森林をつくってゆくことが理想であるし、重要かと思います。
皆伐林は木材を生産する為に、又天然林は環境を保全するためにという単純な区分けではなく、ここに非皆伐の択伐林を入れて、木材生産と環境保全を両立させる森林を目指すことが必要であると思います。
なぜなら択伐林は高度の木材生産と環境保全を兼ね備えていますから、これらの森林のあり方としては木材生産と環境保全のいずれか一方に弱点を持つ皆伐林か天然林ではなくて、択伐林を第三の柱として導入拡大すべきではないでしょうか。
私共財団法人熊野林業はこれからも非皆伐・択抜林の森林を目指して努力してゆきます。