ホーム田長谷森林自然公園田長谷の植物・2(アジサイ科)

田長谷の植物・2(アジサイ科)

田長谷の植物・2

 熊野林業第11号では、田長谷で見られるツツジ科・ツツジ属の植物を紹介してきました。今号ではアジサイ科の植物について、紹介したいと思います。アジサイは日本人にとって最もなじみ深い植物の1つです。以前はアジサイはユキノシタ科アジサイ属の植物と分類されてきました。しかし、1980年代になってクロンキストの分類体系が採用されるようになり、草本の属のものをユキノシタ科、木本の属をアジサイ科の2つの科に分けてあつかうようになりました。

 アジサイ科のアジサイ属、イワガラミ属、バイカアマチャ属の植物は、花序のまわりにがく片が花弁状に変化した装飾花をつけるのが特徴です。園芸植物としてのアジサイは赤や青色の装飾花をつけ、色鮮やかです。しかし、野生のアジサイ属の装飾花はヤマアジサイを除いてすべて白色で、決して派手ではありません。

 田長谷に自生しているアジサイ属、イワガラミ属、バイカアマチャ属の植物9種について紹介したいと思います

 ヤマアジサイ

 北海道から九州までの山間の谷間や林床に広く分布し、朝鮮半島南部にも自生しています。高さ1~2mの落葉低木です。葉は楕円形または卵形で長さ10~15cm、幅5~10cm、先は長く尖ります。6月初旬、枝先に直径5~10cmの花序をつけ、両性花のまわりを装飾花がとりかこみます。装飾花は直径1.5~3cm、がく片は3~4個、楕円形から円形、色は淡青色でときに淡い紅色をおびることがあります。両性花も装飾花と同じように色の変化に富んでいます。うっとうしい梅雨の時期の山道をぱっと明るく見せてくれる野趣豊かな花です。変種のアマチャは本州中部に分布し、甘茶の成分フィロズルチン配糖体の含量が多いとされます。しかし、実際の甘茶にはアマチャの葉だけでなくヤマアジサイの葉も含まれているそうです。田長谷では以前は林道沿いの杉林の林床や谷沿いで一面に見られたヤマアジサイがここ数年少なくなったように思えます。シカの食害にあっているのかもしれません。



 

ガクウツギ

 山地の沢沿いの斜面や林縁に生える落葉低木で、高さは1~1.5mになります。関東地方以西の本州と四国、九州に分布する日本固有種ですが、伊豆半島と中国地方ではまだ見つかっていません。葉の表面は濃緑色で独特の青みをおびた光沢があることから、コンテリギとも呼ばれています。5月初め、枝先に直径8~10cmの花序をつけます。装飾花は直径2~3cm、白色のがく片は3個で大きさはふぞろいです。両性花は大きさが5mmほどで色は黄色です。田長谷では鼻白の滝前後の林道沿いで多く見られます。
 


コガクウツギ

 明るい丘陵や低山の林縁に比較的普通に見られる小低木で高さは1~1.5mになります。ガクウツギに似ていますが、葉がやや小さいこと、葉縁の鋸歯が大きいこと、若枝が紅紫色を帯びることなどで見分けられます。花はガクウツギより少し遅れて5月中旬頃、枝先に直径4~8cmの花序をつけます。1つの花序につく装飾花の数は少なく1~3個で、両性花だけの花序もあります。装飾花は直径1.5~2.5cm、がく片は3個、白色で大きさはふぞろいです。両性花は大きさが8mmほどで色は黄色です。田長谷では林道沿いのやや乾いた斜面で多く見られます

 コガクウツギの長く伸びた枝からは良質で白色の髄がとれ、古くは灯心に用いられ、トウシンギなどの方言名でも呼ばれています。



コアジサイ

 関東地方以西の本州と四国、九州の山地の林縁や、明るい林中に見られます。高さが1~1.5mの落葉小低木で、他のアジサイの仲間と違って装飾花がないのが特徴です。葉は草質で明るい淡緑色、縁には規則的な粗い鋸歯があります。6月初旬、枝先に直径5cmほどの花序をつけます。花はすべて両性花で直径葯4mm、花弁は5枚で白色から淡青色、雌しべは2~4本、雄しべは10本で花弁より長く、青色を帯びるので花全体がきれいな淡い青色に見えます。幹の下部で分岐し、多くの枝を出すところから、シバアジサイの別名があります。



ノリウツギ

 北海道から九州まで広く分布する落葉低木~小高木で、高さは2~5mになります。本州中部以北では日当たりの良い森林の伐採跡地や溶岩台地などに、いち早く進出するパイオニア植物の一つとされています。葉は対生または3輪生し、長さ5~15cm、幅3~8cmで先はやや尖ります。7~8月、枝先に長さ8~30cmの円錐状の花序をつけます。装飾花は白色で、がく片は3~5個、長さ1~2cmの円形~長楕円形をしています。両性花も白色なのでよく目立ちます。田長谷では林道沿いや川沿いの明るい場所で多く見られます。

 材は白色で堅く、楊枝やステッキ、傘の柄、かんじきの爪などに加工されてきました。また、根材からはサビタパイプとよばれるパイプがつくられたそうです。枝を水に浸して内皮からぬめりのある粘液をとり、和紙をすくときの糊料に用いたのでこの名がついたとい言われています。

 

ヤハズアジサイ

 紀伊半島、四国、九州の深山にやや希に見られる落葉低木で、高さは1~3mほどになります。葉は長さ12~25cm、幅7~20cmの広楕円形で大きく、先のほうで3~7個の浅い裂片に分かれます。この葉の先端の切れ込み方を矢筈に見立てて和名がつけられました。7月末、枝先に直径20~25cmの花序をつけます。装飾花は緑白色でがく片は4個、長さは1cmほどで少なく、花序のまわりにまばらにつきます。両性花は白色で多数つきます。田長谷でも標高900mに近いスギ林でわずかに見られるだけです。

 植物地理学上、九州(襲)、四国(速)、紀伊半島(紀)に共通して分布する植物を襲速紀(そはやき)要素といいますが、ヤハズアジサイはその襲速紀要素の植物の代表といえます。


 ツルアジサイ

 北海道から九州、朝鮮半島南部に分布するつる性の落葉木本で、幹や枝から気根を出して樹木や岩をはい上がり、高さは10~20mに達します。幹は淡褐色で、樹皮は縦にうすくはがれます。葉の大きさや形には変化があり、樹幹をはい上がる枝の葉は一般に大きく、卵形で長さ5~12cmになり、林内をはう枝の葉は円形で、長さが数cmと小さくなります。6月中旬、枝先に直径10~20cmの花序をつけます。両性花のまわりを3~7個の白装飾花がとり囲みます。装飾花は白色でがく片は3~4個です。両性花は黄白色で、雌しべは2本ですが、雄しべの数が15~20本と他のアジサイ属と比べて多いのが特徴です


 イワガラミ
(イワガラミ属)

 北海道、本州、四国、九州と朝鮮半島に分布するつる性の落葉木本で、ツルアジサイと同じように、幹や枝から気根を出して樹木や岩をはい上がり、高さは7~10mに達します。山地の林縁や岩場などやや明るい場所を好んで生えています。6月初旬、その年に伸びた新しい枝の先に大きくてやや平たい花序をだします。花序の直径は10~20cm、両性花のまわりに10数個の装飾花がつきます。装飾花は1個のがく片で長さ3cm、幅2cmの広卵形で大きく白色でよく目立ちます。ツルアジサイとは花の時期以外で区別するのは困難です。しかし、花が咲くとイワガラミの装飾花のがく片が1個であることで、容易に見分けることができます。また、ツルアジサイの葉の鋸歯は細かくて、片側だけで30個以上あるのに対して、イワガラミの鋸歯は粗くて、片側だけで20個以下であることも、区別点の1つです。さらに、アジサイ属の雌しべが2~4本であるのに対して、イワガラミ属では1本であるのが最大の相違点です。


 バイカアマチャ
(バイカアマチャ属)

 東海地方、紀伊半島、四国、九州に分布する落葉低木で、高さは1mほどになります。葉がアマチャに似ていることや、甘茶の代用品として用いられたことと、花がウメの花を思わせることからこの名があるとされます。7月末、枝先に白色の装飾花と両性花をまばらにつけます。装飾花のがく片は合着して皿状で、網状の脈が目立ちます。両性花の花弁は4枚で白色で厚く、雄しべは多数で葯は黄色、雌しべは2本で雄しべより長くなります。また、装飾花のがく片は秋、葉が落ちたあとでも残るのがこの木の特徴で、葉の無くなった冬場でもこの木を見分けることができます。

 

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