森林は陸上生物の故郷であり、宝庫でもある。生命が海より陸に上り地衣類から草原にそして次第に森に発展して行き巨大な樹木や動物が繁殖し、その種類もおびただしい繁栄を見た。
木登りのうまい小動物は猿に進化し、安全で食物の豊富な樹上で生活する猿が種類も数も大きく進化し発展もみた。木登りの下手な猿類の祖先は地上では安全が脅かされ森を出るが、草木が繁茂し、食料が豊富な場所は多くの草食獣が集まり、それを襲う食肉獣が寄って来て、弱く足の遅い人間の祖先は、そこにいられず次第に食物の乏しい岩山か土地の乾いた草原に、逃れて行ったと思われる。
そこで乏しい食物から栄養を取るために草本の種子を集め、それをもぎ取って安全な場所 (岩山や洞窟)に運びそこで食する事、保存する事を覚えたと思われる。
その為、二本足で歩くことを憶え、草木の種子が住み家の周囲で落され、種が芽生え栽培が始まった。二本足で歩き、手が発達し道具を扱う事を憶え、草木やその根や果実の他に小動物(うさぎやねずみ・昆虫・爬虫類等)も食したに違いない。
人間の歯の構造は草本の種子(穀物)をかみつぶすのに適して居るが臼歯が二十本の他に犬歯が四本、門歯が八本ある所が、以上の食物を食して居た事を物語って居る。
小グループから集団に、又棒切れや石を持ち、次第に人間は集団と道具を使うことによって、強くなって行き、大きな動物も倒す様になり、食肉獣に対しても恐れなくなって行き、次第に住み家を広げて行き、食物の豊富な所に、又栽培が一層し易い場所に移動し、そして五百万年位前に人類の祖先の発生からその進化と歴史の中で、人間は数を増やし進化し、世界のあらゆる場所に移動し発展して行った。
アフリカの森林より草原へそして食物の乏しい岩山から肥よくな土地に、そしてアフリカからユーロシア大陸にうつってきたのが百万年前後と言われている。それから世界のあらゆる場所に広がって行き、火を手にし、(数十万年前と言われる)始めは暖をとる為であったろうし、又食物を焼くに用いる様になり、その後は森を破壊して農場や牧場を広めたり、金属を溶かして色々な道具や武器を作るのに用いる様になり人類は大きく発展して行くが、この様な文明の発展と共に、森林や自然を壊す事が急激に進んで行ったに違いない。
文明の発展は二・三万年前から急に大きくなったと思われる。今の人類(ホモサピエンス)は十数万年位前から現れたと言われるが、更に現代人(旧人類と新人を区別する)は数万年位前と言われ、それまでいたネアンデルタール人(ホモネアンデルターシス)は突然滅んで居る。
現在人(ホモサピエンス)が現れて急速に文明の発展と森林破壊と共に、他の生物に対する殺傷も急に進んで行ったと思われる。
現代人は大いなる文明の発展と共に、自然を破壊し他の生物を殺戮し、欲望の為に人間だけが求める方向に走って行き、奪い合い人間同士の争い、戦争が生まれ自然を破壊して行きながら、人類同士が殺し合う、恐ろしい人間の世になって来たのではないだろうか。
そして、集団の戦争からテロの戦争になり、欲望の為の文明の発展は恐ろしい方向に進んで居るが、生き物の故郷で人類を生み、育んでくれた森を破壊してどうして生きて行けようぞ。人類は大きな天罰を受けて居るのである。自然を大切にし、生命の故郷である森を大事にして行く事が、この様な恐ろしい世から救う道ではなかろうか。
私共、日本人は古来より自然を愛し自然を大切にして来た。そして森は神の住まう場所、佛の修行する場所と尊んだ。森の文明、木の文化、木造の建築や木の道具、森林から取れる多様な林産物や恵み、この様に森と共に生きて来た。
日本人の生活と心情は、森や自然を破壊して行く西洋文明とは対極をなす。
自然を愛し自然の中に育む生命を尊び、多くの生命・生物と共存し生きて行く事こそ、人類を救う素晴らしい文明ではなかろうか。
これらの事をよく見直して、徒らに現在の文明の方向に走る事なく、長い先祖より受け継が れた日本人の心、日本人の文化こそ、世界を救い人類の危機を救う最善の方向ではなかろうか。
私共林業に携わる者は、この尊い日本人の文化の心髄である森を基にして大切にすることが仕事であり、この事に誇りをもち出来るだけ自然をいためない林業の方向を目指し、そして単に木材生産のみに片寄らず、森林のもつ多様な効用を生かし、森林を大切にして、人類の生存の為に森林と共に生き、森林と共に業を営む生き方が人類を救うと言う大きな使命を持っている事を誇りに持ち、これを訴え広めて行くことが大切ではなかろうか。
森林と林業は自然の森林を大切にし、材木の収穫のみの林業でなくその中から林産物と言う果実を戴いて、単に 林を壊す事なく収穫を得ると言う林業と林産物の生産と収穫を目ざすならば、自然は壊される事なく恒常的に果実(林産物)を戴き、それが人間の恒久な生存と幸せな人生、豊かな社会、平和で希望のある国作りとその発展につながるのではなかろうか。