「熊野林業」第5号

記事の掲載について

公益財団法人熊野林業が発行する機関誌『熊野林業』について

第5号の記事(青字)をこちらに掲載しています

※記事内容や執筆者肩書につきましては発行時のものとなりますのでご了承ください



『熊野林業』を無料で配布しています

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番号 題名 執筆者
1 「新しいむら構想・明治編・平成編」 社団法人日本林業経営者協会 婦人部会会長 山縣 睦子
2 発想の転換を -山で生きるために ハイトカルチャ株式会社 会長 赤井 龍男
3 林業経営 大阪府指導林家 大橋 慶三郎
4 国立国際森林博物館を熊野へつくろう 作家 宇江 敏勝
5 林業の現状について今思うこと 株式会社新宮商工新宮山林事業所 所長 山本 喜一
6 森林と人類のかかわり 財団法人熊野林業 会長 浦木 清十郎
7 熊野の森への招待 財団事務局 泉 諸人
8 「第六回林業研修会」 財団事務局
9 非皆伐施業参考林分 財団事務局
10 試験林及び作業道位置図 財団事務局

6 森林と人類のかかわり 財団法人熊野林業 会長 浦木 清十郎

 人類と猿の共通先祖は森で生活して居たが、木登りがうまく、安全で食物の多い樹木生活に適したものは、猿として進化し、多くの種類に発展した一方、木登りの下手で樹上生活から落ちこぼれた人間の先祖は、地上では猛獣に襲われる危険から森から離れ、草原に出て行ったが、草食獣の集まる草木の豊かな土地には、猛獣も集まり、弱くて逃げ足の遅い人間の先祖は、次第に草木にも乏しい荒地や岩山の様な草木もあまり茂らない食料の乏しい所に逃れて行ったと想像される。

 そして人間の先祖は食物を漁る時、絶えず監視が必要であり安全な場所に戻る迄、絶えず背伸びして頭をもたげ周囲を見まわし、危険を避けながら歩み、安全な隠れ家に戻ってきたのであろう。

 そこで人間は立って歩く事を覚え、直立歩行が出来る様になり、即ち人間に進化したのである。

 人間は、直立歩行の為に、他の四足動物とは違った頚椎の構造になり人間としての特徴が出来たのであろう。
 
 そこで人間は手を使う事や、食物の保存や、草木の種を手で持ち運び、隠れ家の周辺にまき散らし、栽培の技術、即ち、文化(カルチベーションカルチャー)が生まれたのである。

 この様に森を離れて人間が進化し、草木の種子を蒔く栽培技術を覚え文化が芽生え、長い年代をかけて人類の進化と大きな発展を見たのであろう。

 一人類が生まれたのは、アフリカで約五百万年位前と言われているが、アフリカからアジア、ヨーロッパへの移動と広がりが始まったのは約百万年位前と推定される。

 それから人間は全世界へと広がり発展するが、すべての哺乳類がそうであるように森林が故郷であり、又、人類文明へ何百万年の長い歴史の中でその発展は森林に負う所が最大であり、人類は森と共に発展し文明文化を発展させた。

 人類は森林の産物、特に棒切れ等、始めはささやかなものを用いたが火を手に入れてからは、大量に森林を消費する事になったのではなかろうか。

 中国で発見された、北京猿人は、既に火を使う事を知っていたといわれ、近年報じられたものでも人類は七〇~八〇万年前に火を利用したと言う記事があった。

 始めは暖をとる為に用いたのであろうが、農業が発展するに従って森林を焼いて、畑地を広げ、又食物の煮炊きの他に土器や銅、鉄の製錬に火を用いる為に木を燃やす事を覚えて、森林破壊がはじまったのではなかろうか、(今も焼畑農業が最も森林を破壊するものの一つである)人類は森林を消費しながら文明を築き発展するが、現在では森林を枯渇する方向に森林をとりつくしているのである。

 森林に代わる多くの資源や、エネルギーを、人間は発見発明したが、森林が人類の大きな資源であり基である事には変わりはない。

 前述の如く人間の欲望を満たす物質文明は、森林を減少し枯渇に追いやっているが、空気の浄化や水源の涵養、 環境の保全等、森林は(水や空気がお金に換算した時の価格は極めて少ない)人類存亡の大きな役割を荷っておるのである。

 この事に人々は気付き始め森林の保護や、環境の維持が叫ばれる様になったが、この声も森林の減少を食い止める程の力にはなっていないのである。

 又、前述の如く現在のお金に換算する森林の価格は低く非常に安いのであるが、この大切な森林について為政者も経済人もその大切さを口で唱えて居るが、切実な問題としての意識は甚だ低く、政府も国民もこの事の重要性に関心をもち、如何にして森林破壊、森林の減少を防ぐかにもっともっと心を向けるべきである。

 我が国の国有林では自然環境林を増やし、林産物生産の山林の面積割合を、減らして行こうという方針をうたって居る事は望ましい事であり、又、民有林に於いても、持続的山林経営とか、非皆伐の林業を奨励する傾向が強くなっておる事は、森林を保全する為に喜ばしい事である。

 しかしながら森林を維持して、環境保全に役立って居る民有林に対して、維持する為の助成や支援が他の産業の育成に比べると殆ど行われていない。

 民有林の経営維持が非常に厳しい時代に、この助成こそもっと政府は力をいれるべきではなかろうか。

 又、木材生産の山林と自然環境を維持する山林とを、林業白書では区別して居るが、一済皆伐一済単純林造成の林業では、天然林と人工林では非常に異なっているが、必ずしもこれが林業の望ましい姿でもなければ、林業の基本でもないのである。

 私共の提唱する天然林型林業経 営と、木材生産とは矛盾しないばかりか、この方が継続的に森林を維持しながら木材生産を行い、一度にどっと多くの収穫がなくても恒常的に林産物が得られ、トータルで見ると遥かに収穫が多いばかりでなく、造林経費がうんと少なくても済み、林業経営の理想の姿なのである。

 この方向に林業が目指すならば、森林は減少する事なく環境を破壊しないで林業の収穫が継続的に得られるのであり、又トータルとしての収入は遥かに多い事は前述の通りであります。

 この様な天然林型林業経営は、これ迄、熊野林業の中で度々記述して来たところでありますが、熊野地方のなすび伐り、岐阜の今須の択伐林、秋田の杉の天然更新や国有林の木曾の大規模な天然更新等、又、外国ではスイスが全山非皆伐であり、嘗てのドイツの公爵林の択伐林、又アメリカの東北部や南部の天然更新択伐林等は既に別号で記述したところでありますが、本来の林業はこれらの天然林経営であり、世界にはその範がいくらも存在しているのである。

 今の皆伐林業は一般工業や農業の規格、大量生産方式に組み入れられて、林業の本来の経営方式が変質して行った結果である。

 森林を失った国と民族は、文明もやがて亡び、又民族の繁栄も 衰亡する事は中東地方の現状がそれを物語って居るのである。

 私共の天然林型林業経営は未だ少数であり、わが国でも理解される方々は少数派であるが、この主張を広めて 行くのが私共の大きな役割であり願いであります。

 大量生産、大量伐採も、大きな森林破壊の要因であるが、前述の焼畑農業が後進国における森林破壊の横綱であり、これらの行為を少しでも減らし、天然林経営林業に、切り替えて森林を守り、林産物の生産を安定させ森林を継続的に維持して環境を守って行く事が、林業を存続させ、 国の衰亡を助け、ひいては人類滅亡を救う大きな要諦であります。

 

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