「熊野林業」第8号

記事の掲載について

公益財団法人熊野林業が発行する機関誌『熊野林業』について

第8号の記事(青字)をこちらに掲載しています

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番号 題名 執筆者
1 森林、林業基本法の制定の背景とねらい 独立行政法人緑資源機構 理事長 伴 次雄
2 熊野川の流木、中道良平氏に聞く 作家 宇江 敏勝
3 熊野地方の植物相 新宮高等学校 教諭 瀧野 秀二
4 森林の国際NGO活動で学んだもの 熊野森林文化国際交流会 事務局長 松本 佳子
5 林業随筆 多屋林業株式会社 社長 多屋 平彦
6 林業、国産材の窮状と対策 財団法人熊野林業 評議員 中 光男
7 森林と人類のかかわり 財団法人熊野林業 会長 浦木 清十郎
8 「第九回林業研修会」報告 財団事務局
9 非皆伐施業参考林分 財団事務局
10 ようこそ森林自然公園へ 財団事務局

7 森林と人類のかかわり 財団法人熊野林業 会長 浦木 清十郎

 高野、大峯、熊野に亘る古代よりの熊野三山 (熊野神社)之参詣の道が、ユネスコ世界遺産に登録され一躍脚光を浴びる様になった。
 
 平安時代より、千年に亘る熊野信仰に対する信仰と修行の道は、御神仏を祀る高野、熊野と共に文化遺産としての登録がされた。この道は、連綿と続く険しい山岳や谷と緑に覆われ、又瀧や渓谷から流れ出す豊かな水が、熊野川やその他の河川に続いて居る素晴らしい自然地域にある。

 この地方は、林業の歴史も古くその為に森林の割合は、自然林よりも人工林が多くなって居り、その部分は杉檜が多く自然の多様な森林から遠ざかって居る。しかし、今後この地域が保護され環境が大切にされれば、何れ天然林が生長し、夫々の大木が生長して原始林に近づいて行き、天然の森と山とが調和する素晴らしい環境に育って行くであろう。

 戦後の物資不足の頃、木材も飛ぶように売れ、真直ぐで成長の早い杉檜の植林が奨励され、人工林としては、杉檜のみの一斉造林の林になって居るが、今では嘗ての木材ブームが去り、以前とは全く対照的に数十年生の杉檜も、殆ど収益にならない状態である。この現状の中では、杉檜だけが林産物であるという今までの林業家の意識を変えるべき時代になって来たのでは なかろうか。

 森林の中の全ての生産物、並びにその効用全てを森林の産物と考え、建築材を主とする針葉喬木を始め、家具や色々な材に使われる大径木の広葉樹、又間伐材や小径木は、竿や建築材の他に家具、カゴや台所用品等の日用品、又装飾品等その他色々な用途の木材製品に使われ、小経木や潅木は、上記の他にも数え上げれば切りがない程、その用途と利用は多いのである。

 又、薬用や食用に使われる薬木や菜や根、木の実や果実、栗やクルミ、栃の実、やまもも、あけび等、たらの芽、山椒、わらび、ぜんまい、茗荷(みょうが)、葛、片栗、ワサビやキノコ等食用や薬用も数え上げれば限りがない。又、森林動物のイノシシや鹿、野兎、キジ、山 鳩、ヒヨやスズメ等、そして谷や川に住む魚貝類や昆虫等多くの植物や動物は、食用としても、薬用としても或いは観賞用やペットとしても人々の暮らしに役立ってきたし、又現在にも生かされているのである。タラの樹皮やニワトコ、天台烏薬、アシタバ、ゲンノショウコ、ジュウヤク等の薬木、薬草等、これらの産物は、前述の如く人々の生活に大切なものである。

 更に森林の効用は、リクリエーションやキャンプ、山登りやハイキング等、観光、健康スポーツ等に利用効果があり、更に高野三山と参詣道が示して居る様に、信仰と修行の場所として精神的な宗教的な修行の場所と成っている。

 以上の様な森林の多種多様な産物と効用は、規格大量生産、低コスト志向の大量生産方式では、その育成も経営も不可能である。これらの夫々の分野の生産や育成管理と経営は、きめ細かく飽くまで手工業的な分業としてやらないといけない。夫々の分野に応じて、農業や他の 職業との兼業を含めてきめ細かな経営を考え、それらをまとめて行く総合的な管理と経営が必要である。

 森林所有者は、全体の基本計画を作り夫々の分野にその土地、森林を提供し、全体を管理し、経営をして行く事である。

 地形が多様のため環境も変化に富む日本では、規格大量生産方式よりは前記の様な経営と生産を考えなければいけない。

 日本人の持つ繊細な技能や性格は、以上の様な方式に熟達すれば長続きする成果が発揮され、大陸や他の国では出来ない日本特邑の事業が発展するであろう。

 そして、以上の森林の利用や生産も森林はあくまで自然の生態に近づけて行くべきである。そして、森林を破壊する事無く生産が維持され森林と自然が残され乍ら、人々の生活に必要な生産物が得られるのである。

 又、近年の環境問題から森林こそが陸地の環境保全(即ち国土保全、空気の浄化、水源の涵養)の最大の存在であり、世界環境会議の京都議定書に於いても、環境保全のための最も重要な存在である事を世界が認識を深めて居るのである。

 前にも度々書きましたが、森林を失った大国は、土地は疲弊し遂には砂漠化し、人々も気が荒んで戦争やテロが絶えない国となって居る。

 森林こそは、人類や社会、国家にとって大事なものであることを世界の人々が認識する時代になって来て居る。

 人類が、森林を破壊し始めた。のは、現代人の文明が起こり始めた二万年から三万年位の頃で なかろうか。そして、二万年程前から森林破壊が進み、更に数千年前の世界の文明大国の興隆の時代から森林の破壊は、飛躍的に大きくなって来て、更にこの百年から二百年は凄まじい勢いで森林破壊が進んできた。世界環境会議が、これらの破壊をどれだけ食い止める事が出来るだろうか。

 名古屋の愛地球万博でロシアのマンモスが大人気を博して居る。この地球最大の動物は、二万年位前に絶滅して居る。これは現代人類が殺して行ったものである。今より数万年位前には、今の人類と稍違うネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)が絶滅して居る、現在人類は、森の破壊と共に森林の民と云われて居る。ネアンデルタール人をも絶滅に追いやってしまったのではなかろうか。

 今の人類は、二十万年位前アフリカよりユーラシア大陸に渡って来たと、最近の新聞で報じられて居る。すると二十万年位前から五万年位前の十五万年前位の間は、森林と共にネアンデルタール人と共存していたのではなかろうか。

 人類は、五百万年位前にアフリカで猿と分化して進化してきた事は人類学の定説に成って居る。

 更に百万年位前にアフリカからユーラシア大陸に渡って来たと言われている。そしてユーラシア大陸やジャワの様な島々も約十万年位前の人類の化石が発見されている(ジャワ原人、ピテカントロプス、北京原人、シナントロプス)

 しかし、現在人類は、二十万年位前に新たにアフリカに発生し、ユーラシア大陸に渡って来たと今年の新聞に報じられている事を前述した。

 長い年月の間、人類も森林と共に、又他の動植物と共存していたのである。ところが、五万年位前にネアンデルタール人は、前述の如く亡んで居る。そして、マンモスが二万年前位に亡んだことは、前述のとおりである。又、今の人類も五万年位前のを化石人類、又は旧人類 (ホモ・サピエンス・ホーシル)と、その後の今の人類、現在人(ホモ・サピエンス・サピエンス)を変種として 区別して居る。現在人になってから森林を壊し、動物、人類やマンモスを含む、他の生命を奪って行き、共存から排他と破壊の人種と成ったのではなかろうか。

 人類の文明は、森林を破壊するだけでなく、他の動植物、即ち生命をどんどん奪って行って居る。そして、人類同士が戦いにより殺し合って居る。更に、生命のみならず地球を壊して行って居る今日の文明は、善より悪の方が勝っているのではなかろうか。

 この様に現代人類は、罪を作り悪に陥って居るのである。森林を持続し、育成して森林や他の生物と人類が共存しながらその恵みを人々は受けるようにしなければ成らないと思う。

 自然界は、森林も動植物も、そして山や海の自然も善である。そこに神仏が宿る。自然こそは、神であり仏である。

 今の人類は、この尊い場所を傷つけ汚し、壊し、罪と 悪を作り、文明と言う罪を拡大させながら生きて行って居る。

 もし悪と罪を更に積み重ねて行くと現在人類は、やがて滅びる時期が来るのではなかろうか。

 

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