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「熊野林業」第1号

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公益財団法人熊野林業が発行する機関誌『熊野林業』について

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番号 題名 執筆者
1 木の国熊野の森林から 東大名誉教授 嶺 一三
2 新しい林業経営計算 東大名誉教授 平田 種男
3 今後の林業の在り方と熊野林業研究所設立のねらい 理事 早稲田 収
4 思い出(感謝を込めて) 和歌山県森林審議会 会長理事 多屋 平夫
5 機関紙「熊野林業」の発行によせて 理事 松本 芳和
6 皇族方を熊野三山にお迎えしよう! 大正殖林社長 評議員 矢倉 甚兵衛
7 浦木社長との出会い 林業経営者 尾中 鋼治
8 熊野の林業と森林 浦木 清十郎
9 「なすび伐り林業研修会」報告 財団事務局
10 非皆伐施業参考林分 財団事務局
11 作業道作設の参考資料 財団事務局

8.熊野の森林と林業 熊野林業研究所会長 浦木清十郎

 日本は国土面積の約70%が山岳と森林であり、そのうち30%が国有林であり、その他が民有林等となって居る。世界でもたぐい稀な森林国であり、又健全で優れた林業が営まれて居る国である。

 その森林の中で半分以上が木材生産林としての林業が営まれて居り、 日本の木材需要のうち3分の1がまかなわれて居る。

 昭和20年、終戦の時は全ての物資が不足し、木材は日本に残された最も有用な資源であり、建築材、家具材、紙パルプや燃料材の為のかけがえのない大きな資源であった。燃料は現在、石油その他にかわり、建築や家具等も代替品が多く出来て、木材の需要は他に転化されたが、経済の発展により全木材の需要量は増え、特に紙パルプ等の木材資源の消費が多くなってきたことで、現在では約70%が輸入材によってまかなわれて居る。

 その様な状況下で我が国の木材生産や木材価格は、他の物価に比べて相対的に低くなり、林業並びに木材事業は他の産業に比べて、低い水準に取り残されて居るのが現状である。従って林業は、日本の山林の30%を占める国有林(一部の営林局を除いて)でも赤字経営であり、民有林も又苦しい経営が続けられて居る。

 日本の森林は保安林や環境保全林(自然保護林)等、木材生産目的以外の山林が約半分を占めるが、他の半分の生産林業を行って居る森林は、赤字経営が多くを占めるが、成長量や蓄積の上では戦後50年の間に増加して居り、資源としては蓄積が増して居る方向にあると林業白書は報じて居る。

 しかし戦後木材資源の不足時代には、大部分皆伐方式で伐採され、その跡地に杉、桧、松、カラマツ等の用材を主とした樹種が一斉に造林され、令級のそろった、又樹種の限定され山林に置き換えられた結果、多くの天然樹種は減少してきた。すなわち蓄積や成長量が増加して居るものの、未成熟のため低質で価値は低い。森林としての高質、価値の高い材を生産する基盤や保安的(水源涵養や空気浄化)要素や、家具その他多様な用途の樹種や森林は減少して居り、低質な木材生産は増加して居るものの、森林としての価値は減少して居る。価格と価値は必ずしも一致するものではなく、水や空気は価格はゼロに近いが価値は大きい様に、 森林も価格は低くても価値は高い。

 即ち天然林が失われ、人工林、特に単純一斉林が増えて居るが、その為森林としての基盤は低下しつつあり、生産する材は低質になり水源かんよう、空気浄化等の保安的要素が失われると共に、一斉の皆伐は一度に金員収入が得られ、経費(伐木、造伐、運搬費)も安いようであるが、その後の造林再生産には多くの経費がかかり、又次の収穫迄には長年にわたり、生産材は低質である。又育林期間中の経費と金利の累積は非常に大きいのである。

 特に、造林費、集運材費、人件費等が木材価格に比べて遥かに高騰している現状では、植樹、造林再生産の事をトータルにみると、皆伐林業は赤字経営にならざるを得ないのである。

 それでは、林業は今後赤字体質、赤字経営とならざるを得ない産業なのであろうか。

 国有林のごく一部や民有林の中でも赤字でない林業が行われて居るところがあり、林業は必ずしも赤字経営ばかりではない。

 林業は一斉に造林し、遠い将来に収穫する農業的手法で収支を計算すると、前述の様に赤字になるのは必然であり、又遠い将来の経済や社会の変容を予想計算する事は不可能である。

 従って、植林して将来その成木を予測するよりも、森林がありその基盤を残しながら、抜き切り(択伐)する方法で、経費に見合うものを伐採し収穫するのである。この方法ではその伐採の収支が赤字にならないばかりでなく、森林の基盤が失われることなく、継続的に収穫が得られ、造林費は極端に少なくなるのである。

 即ち、森林を森林基盤(森林構成の中で基盤となる部分)と、収穫が許される果実の部分に分ける。この果実は、果樹(みかん、柿、リンゴ) の様に果樹と果実に判然と区別出来ないが、森林が欝閉され、林内照度が少なくなり、適度の疎開が必要とされる時機が伐採を必要とする果実が出来て居ると考えるのである。そして森林全体の中で、どれを収穫すべきであるかを見分け、果実の部分である立木や、その他の林産物を収穫するのである。それは森林全体の一定期間(伐採から伐採迄の期間) の中でその果実にあたる部分を抜き切った後、再び欝閉される迄の間の成長量を計算し、伐採(果実)はその森林(林分)の成長量のトータルの範囲内にとどめるべきである。森林が成熟するのは何時であるかの判定は限定的なものではないが、壮令木や中令木、幼令木等混在する中で、 高令級のものが交わり、欝閉した森林が成熟に近づいたと見なして良い。しかしあまり森林の成熟を考慮しなくとも良く、未成熟の森林でも欝閉や照度の程度によって果実として伐採収穫が行われるのである。

 経済的には、その木材の価格や需要等を考え、今すぐ収穫すべきか、残して成長を待つべきか、又枝打ちや又疎開する事によって将来形質の向上や成長を計る等の考慮をして伐採すべきものを判断する。その場合伐採される木材の価格と経費がトータルで赤字にならない範囲で伐採、収穫を行うものである(赤字になるものは間伐、除伐と考えられるものもある)。

 以上の様に森林(林分)の中で三つの要素が総合的に考慮されて果実となるべきものを判断し、伐採がなされるべきである。伐採又は伐期はこの様な考え方に基づくので、皆伐一斉造林の様に一定年令の伐期令を考える事はない。

 勿論樹木には寿命や樹勢の衰え等があり、欝閉又は過密になった森林で、基盤となるべき森林を害しない様に、又将来有用なものをより成長を促す為、除伐や間伐を行う場合もある。しかし除伐や間伐は少なくなり果実として収穫されるべき経済的有用な収穫物が大部分を占める様になるのが理想である。

 そして高令木又寿命に近い樹木だけが伐採利用されるのではなく、多くの樹種が混在するこの様な森林(天然林型)では、灌木や下層木、草木等も有用なものは林産物として収穫する。例えば下木のクロモヂは爪楊枝になり、しきみ、榊等は神祭佛事に用いられる。三寸以下のツバキやシャラも床柱になり、杉、桧、松、カラマツ等の若い樹も海布丸太、磨き丸太(床柱等)柱材、ケタ材等夫々の大きさに於いて利用伐採され、ツバキの実は油となり、下層草木にも色々有用なものがあり、めようがや、ゼンマイ、ワラビ等も有用なものである。松茸やしめじ等、又ほだ木を置いてキノコ栽培も良く、蜂蜜の採集等、森林は多様な生産物を産出するので、木材のみを森林の主要生産物と限定することはない。夫々の用途に適するものは前記森林生産基盤を侵食しない範囲で、又経済的に効果のあるものは森林の果実として伐採利用されるのである。

 従ってその様な森林(多様な樹種が混在する)では、間伐、主伐は従来の様な考え方とはかなり違って来る。即ち、除伐、間伐は欝閉が甚だしくなり、又競合、競争が過密になり、又は樹勢が衰えて、将来的には価値が下がるか、周囲には邪魔になる様な樹種や将来成長しても必ずしも有用でないもので、経済的にあまり伐採してもプラスにならないものを、間伐又は除伐として伐採が行われるが、経済的に利用されるものは全て有用林産物であって、樹木としての成長途中のかい布丸太や磨き丸太も、そして前記多様な森林生産物も主伐の対象と考えて良いだろう。又伐期令も樹木によってそれぞれの寿命や樹勢の衰えがあるので、寿命が来て居るから伐採すべきであると考えても良いが、樹木の寿命は判断が難しい。即ち、樹勢が衰えて居るものでも、疎開し光を入れる事によって樹勢が回復するものも多く見られるからである。

 森林の生態状況によって、同じ樹種でも寿命の幅は大きく、前述の様に一定年令の伐期令と言う考え方は現実的ではないと考えるのである。例えば杉や桧の場合環境との関連で300年でも500年でも或いは1000年を超えても成長しているものがあり、又成長量の最多の時期も一斉の林の様に揃った林を作れば比較的一定の年令に近づいてくるが、環境条件が異なれば成長量最多の時期や、林分の平均成長量も異なり、又現在の利用が量的な面よりも質的な面に重点が移った時代では、成長量最多の時期に伐採をし、収穫材積の最多を求めるよりも価値の成長に重きを置くべきである。

 特に森林の生態的基盤に基礎を置くと、全樹種の森林の成長量のトータルは計測出来るが、個々の樹木の成長量は欝閉度、被圧木等、環境条件によって異なって来るので、あまり深く立ち入ることはない。

 即ち、杉、桧、松等に於いても皆伐跡地に一斉に植栽されるものと、高令木が生い茂る中で、二段林、三段林或いは天然林型の森林に幼令木が芽生える場合とでは、幼令木の成長期間に著しく差があり、杉桧では20年を経ても高令木の下層は径2~3cmの尚幼令木並みの径しかないものもある。その様な樹は年輪は密で、将来欝閉が疎開されて照度が増し成長が促進される時は成長が良く、且つ芯が密で質の良い木材が出来る。屋久杉等1000年を超えるものは幼令時代が長く芯の年輪が詰まっており価値の高い強固な材をなして居るのである。

 以上の様に伐期令という考え方も、この様な天然林型択伐林(抜き切り)では深く立ち入ることがないのである。

 そして以上の様な森林又は林業では、この幼令木は何十年後にどうなるのかとか、どの様な利用のされ方をするか等を考慮するよりも、森林の基盤をこわすことなく、なるべく天然林型の成熟林として将来に残す事が大事であって、その範囲内で数年内又は10数年内に利用出来る経済的効果を考えるべきである。従って、自然環境にマッチした生態的調査や検討が現状の林木の調査と共に大事な要素となってくる。

 また一時的には皆伐より伐採量は少なくて、経費が多少高くついても、継続的に伐採と収穫が得られ、収穫は皆伐後の裸地に一斉造林し、多年造林費のみを費やす皆伐植林に比べてトータルの面で遥かに安いことは前述の通りであり、経費より価格の高いものを抜き切りする為に、後の造林費を考慮しても全体として赤字にはならない。従って一斉皆伐はその時の収支は択伐より有利であるが、次の皆伐迄の造林費や育林期間中の無収入等、長期間に莫大な費用がかかり、森林基盤を残しながら継続的事業として果実のみの伐採による天然林型択伐林(抜き切り)による収支の方は、長期的に見れば遥かに有利な林業経営と云えるのである。

 現在、幼令又は史令の一斉林を、この様な森林に切替えて行くには、従来一般に行われて居た、被圧木や形質の悪いもの、劣勢木を間伐し、将来の主伐の為に優良木、優勢木を残して行く育林方法とは逆に、寧ろ劣勢木や被圧木を残し、優勢で径級が大きくなり、或いは少しでも収入があれば、それを伐採し、被圧された樹木でも、将来樹勢が回復の見込のあるものや今は未熟でも数年後優良木になる可能性のあるものを残すのである。極めて形質の悪いものは取り除くが、劣勢木でも周囲の優勢木又はあばれ木を切る事によって劣勢を回復させ、将来の利用を可能にする事を試みるのである。伐採の状況によって、疎開が過ぎた場合には補植をする。従ってこの様な森林では、将来は径級、令級共に不揃いになってくるが、その方が寧ろ森林として望ましいのである。

 又上記の様に、天然林型に次第に近づいて行けば、森林は保安的機能 (水源涵養や空気浄化等)や環境維持林として最も有用な森林として残されるのである。

 以上の様な林業又は森林は我が国でも実際行われて居り、小規模であるが、例えば岐阜県今須の択伐林、能登や東北地方のあて林業の択伐林、熊野地方のなすび伐り林業、秋田の杉の天然更新や、又大規模なものでは国有林長野県赤沢の檜、サワラ、ヒバ、ネズ等を主とする択伐林でみられるものである。これらは貴重な木材生産と環境林がマッチした林業経営であり、外国に於いてもドイツの公爵林に見られるトウヒやツガの択伐林、スイスの山岳地の択伐林やアメリカ東北部の松、広葉樹混交の天然林経営や、アメリカ南部地方に見られる南部松を主とする針、広混交の天然更新林業等で実際行われて居るのである。

 熊野林業研究所に於いても天然林型抜き切り林業に近づけながら、又森林基盤を維持しながら、環境維持と林木生産の一致する林業の経営を実施し、この方法や考え方を広く啓蒙、普及を計るのが目的である。現在この施業で実験中の試験林で15年以上も経過したものがあり、その成果は十分に得られて居る。

(浦木林業株式会社社長)

 

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